日本死ねについて

早いもので、あの世間を騒がせた「保育園落ちた日本死ね」から、5年が過ぎた。

保育園の倍率はまだまだ解消していないようにも思う。少子化なので、保育園に園児が集まらず経営が厳しいというのならともかく、逆に保育園が足りないというのはなんだか不思議な気もするが、働く女性が増え、子どもを保育園に預ける必要が出てきたためなのだろう。

働きたい女性のために保育園があることは非常に助かることであり、待機児童がなくなり、みんなが保育園に子どもを預けられるようになればいいと思う。

しかし、保育園が足りなくなっている原因は2つあると思っている。

一つ目は、0歳児保育。これは、子育てをした経験のある方ならすぐにわかると思うが、0歳児の育児はとにかく忙しい。授乳、おむつ、昼寝、着替、お風呂などなど、身体は小さいのだが、時には分刻みで対応が必要になってくる。

よって、保育園側としても、0歳児保育には、人手がとてもかかる、つまり費用がかさむ。しかし、利用者負担は他の年齢の保育と変わらないのでそのほとんどが公費で賄われる。よって、行政側の財政が圧迫される。

二つ目は、騒音問題。多くの高齢者が保育園、幼稚園、さらに公園などの子どもの声がうるさいと色々なところでクレームを入れているというのだ。

以前読んだ記事では、市役所などに入る陳情のほとんどは時間のある高齢者からのもので、忙しい子育て世代や若者からの声はほとんどないため、どうしても高齢者の意見に左右されることが多いのだという。よって、保育園の新設が難しくなるというのだ。

私の両親も高齢者だが、全く逆で、子どもの声が公園から聞こえると嬉しくなる、元気が出ると言っていた。また、子どもの声が保育園や公園から聞こえるのは昼間だけであり、住宅街を走る選挙カーや廃品回収業者の方がうるさいのではないだろうか?

子どもの声がうるさいとクレームを入れる高齢者。ネット上ではそんな高齢者に苦言を呈している人も多かったが、高齢者がそれを見ることはないだろう。

 

そして、私が問題提起したいのは、ここからである。保育園をたくさん作り、待機児童をなくすことが本当に日本の労働力確保に貢献するのか、そして経済的に得なのかを考えるべきだと思っている。

まず、3歳児くらいであれば、一人の保育士で3人の幼児が限界だろう。つまり、3つの家庭がそれぞれ一人の子どもを預けると、一人の保育士が必要になるため、実質、保育園があることで二人分の労働力を日本が獲得したと言える。しかし、もしその3つの家庭にそれぞれ子どもが二人いたら、保育士は二人必要になるので、獲得できる労働力は一人分になってしまう。しかも、保育園は保育士だけでなく、他にも事務員の方などもいることを考えれば、労働力の数だけの話をすると、保育園を増設して、預けられるようにしたところで、その保育園のために労働力が使われてしまい、全体の労働力としては、さほど増えていないことがわかる。

また、これは3歳児であればの話だが、0歳児になるともっと人手が必要になるので、より多くの労働力が保育園で失われてしまう。

また、地域の財政的にも保育園がどこまで貢献しているのかを考えてみたいが、幼児一人あたり平均で月30万円くらいのコストがかかるとされている。そのほとんどが公費なので、社会として、それだけの出費をカバーできるほどの効果があるのかは難しいところだ。もちろん、福祉なので赤字であることは問題ないし、高齢者の介護に比べれば安いとも言える。

しかし、高齢者の介護と幼児の育児では、家族の負担が全然違う。育児の場合、人は本能で動ける。それは母性本能だったり、父性本能であるが、介護の場合は、理性がメインになる。つまり、義務感。また、期間も育児は長くても5年程度であるのに対し、介護は10年、20年と続くので、当然ながら行政の手厚いサポートが必要になる。また、介護の場合には、その家族の年齢も50代以降であり、体力的にも厳しいことや、また会社などでも重要なポジションになっている人が多いため、仕事を休むのは難しい。よって、介護に公費が使われることには異論がない。

育児は、まとめて誰かに頼むことで全体効率(スケールメリット)が上がるものではない。家事で言うなら掃除がこれと同じ部類になる。

また、逆にスケールメリットがある家事は何かと言えば、料理と洗濯である。これは、どこかに大きな施設をつくり、一気に何百世帯分の食事や洗濯をする事ができる。例えば、一つの家庭で、朝昼晩と3食作るのに買い物や食器洗いまで含めて考えれば、一日4,5時間くらいは平均でかかるだろうし、洗濯も畳んでタンスなどに入れるところまで考えれば合計1,2時間くらいはかかる。これを全部行政で請負い、家事サポートが出来れば、子育ては家庭でやってもらうことも出来るのではないだろうか?もちろん、仕事は夫婦のどちらかが制限を受けることにはなるが、リモートワークであったり、また交替制で浮いた家事の時間を活用して、二人とも仕事を続けられることもあり得る。また、これであれば、利用者が例え半額負担にしても、赤字規模は保育園よりもだいぶ小さいと思われる。スケールメリットが大きいためだ。

子どもを単に預けてしまい、親と子の時間がなくなり、一番かわいい時期を仕事のために見逃してしまうのは寂しい。そしてまたそれは、労働力確保の観点と行政の財政的にも望ましい姿ではない。もちろん、昔のように大家族で、祖父母と暮らし、協力しあえる環境がベストなのかもしれないが、それが難しい現代では、新たなアイデアが必要かと思う。

 

単に保育園を増やし、待機児童をなくすことだけが、解決策ではないと思っている。むしろ保育園ではない形でサポートをし、子どもを預けずに仕事を続けられるようにして、余った保育士を別の産業に回せるようにした方がより多くの労働力が得られる上に、財政的にもhappyである。