才能がないことについて

よく、私は才能がないから、と嘆く人を見かける。私も何も才能がなく、音楽も大好きだがオンチだし、絵画も好きだが絵の先生に習っても一向に上手くならず挫折。スポーツも色々やったが、どれも上手いと言われるレベルではないし、勉強も出来る方ではなかった。しかし、それでも私は幸せだなぁと思う。それは、単純に私に何の才能もなかったからだと思っている。

才能とは何か、それは最初から何かが人よりも優れているということだけではなく、練習したり、努力しながらも、最終的に人より優れている状態に出来ることだと思う。天賦のものも含めて、例えば大谷翔平さんやら、藤井聡太さんのような才能の塊のような人に憧れを持つことはもちろんあるが、以前紹介したスパイダーマンのセリフのように、そういう人にはそれなりの責任とプレッシャーがあり、幸せなのかと問われれば、上手くいってる時はいいが、そうでない時も多いと想像する。勝負の世界で負けていけば、バッシングも受けるだろうし、そんなものだったのかとか言われのなく幻滅されたりもするだろうから、ひたすら頑張らないといけなくなる。オリンピック選手なんかもそうで、日々過酷なトレーニングを繰り返し、ダラダラと過ごすことなんてほとんどないし、食事や寝ることだって、競技のためとリラックスタイムではないという人生だ。

私はと言うと、才能がないが故に、特に誰からも期待されるようなことはなく、生活を成り立たせるためだけに働いたり、その少ない稼ぎの中で食べたり、飲んだり、休んだり、そんな日々、気ままな生活を楽しんでいる。もちろん、何の悩みもないわけではないが、好きなように暮らしていける。

もし、才能があったらどうなるかと想像してみると、例えば、中学校時代に体操の才能が開花してしまえば、きっと全国大会に出たり、特別な体操教室に通うようになったり、周りもきっと期待して、頑張ることを強要されるようになるだろう。そして、みんなが楽しそうに遊んでいる高校時代、大学時代も必死に競技に打ち込むことになる。しかし、本当に競技で活躍出来る人は僅かしかおらず、どこかで挫折した時には、もう高校時代や大学時代には戻れない。

また、才能の中には、カッコいいとか、かわいいとか、美人だとか、見た目のものもある。これだと、俳優を目指せだとか、モデルになれとか、そんな話も出てくるだろうし、例えそんな直接的なものにならなくても、何かにつけて、ルックスを活かそうとしたり、またはそれによって、時に自分を偽らなくいけなくなったり、苦労が多いはずである。

つまり、才能というのは、無い人から見ると一見羨ましくも思えるのだが、実際にはそれに縛られた人生になりかねないし、それで良かったと思えたなら最高であるが、才能があったが故に大きな代償を払わなくてはいけなくなるケースが多いのではないかと想像する。また、才能があり、それが開花してくると周りからチヤホヤもされ、勘違いしてしまうこともある。実はこれも代償の一つで、チヤホヤされているうちに、我を見失い、とんでもない方向に進んでしまって、取り返しのつかないことになることもある。

だから、才能のある人が才能を開花させず静かに生きて欲しいというつもりはなく、才能があれば、才能を活かしてそれなりにみんなに貢献しながら生きていってほしいが、私はこの記事で、才能がないと悩んでいる人に対して、むしろその方が人生幸せなのでは?と伝えたいのだ。

才能がないと諦めた人の人生はきっと、特にこれといって努力はせず、食べたい時に好きなものを食べたり、暇があればテレビを観て爆笑したり、感動したり、友達と長電話したり、何かに夢中になっている人からすれば、時間を分けて欲しいと言われるような贅沢な時間を過ごしている。これはまさに貴族であり、最高の幸せなのだ。私は才能がないと諦めてても、一生懸命努力している、という人もいるだろうが、それもそれで幸せである。開花してない才能であれば、それは誰からもまだ期待されていないし、プレッシャーもない。努力しているという時間も、とても幸せだと思うし、もしそれが苦しくて止めたいなら、止めればいいだけなのだ。ただ、才能が開花し、注目をされるようになると、もう止めるに止められないし、基本的にはそれに縛られる人生になっていく。

また、日本社会は、一人の天才よりも、100人の凡人が大事という社会であり、才能のない人が生きやすい社会でもある。狩猟民族の文化だと、人間の優劣を問題にされるが、農耕民族は調和が大事で、とび抜けた才能は特に必要でなかったのかもしれない。

私はバカだから、ブスだから、貧乏だから、仕事が出来ないから、身体が弱いから、なんでもかんでもみんな悩んではいるが、人より劣っていること、出来ないことが多いことで得られた特権があること、そしてその中で得られる幸せがあること、きっとそんなことに気がつける人は少ないかもしれないが、一度考えてみるといいと思う。特に、才能溢れる人の人生と自分の人生を比べた時に、きっとどこか自分の人生の方がいいなぁと思えることも多いのではないだろうか。もちろん、人生に優劣はないので、実際にはイコールなのかもしれないが、才能がないから人生が最悪だと悩む必要はないと言いたいだけである。

人生とは、歴史に残る偉業を成し遂げることも素晴らしい人生かもしれないが、自分なりの幸せを噛み締めて生きることもまた素晴らしい。才能がなくても、何かを成し遂げなくても、きっと幸せは掴める。