ノスタルジーについて

突然、ふと強い郷愁を感じる瞬間というのが訪れて、強烈に過去に戻りたくなる気持ちになることがある。どうしようもないこの感情の行き場がなく、それがまた切なくて、ゆっくり気持ちを落ち着かせて、その感情が消えていくのを待っている。

年に一回、また二回くらい、そんな瞬間があるのだが、今回、上島竜兵さんの訃報、そして竜兵会のエピソードが色々なところで流れているうちに、ふと自分のアルバイト時代を思い出し、冒頭で書いたような気持ち、所謂ノスタルジーに駆られた。

竜兵会というものの存在はもちろん知っていたし、これまでもその活動というか、思い出話を有吉弘行さんや土田晃之さんがしているのを聞いたことはあったが、今回より深く色んな話が出てきたことでさらに理解が深まった。上島竜兵さんと言えばダチョウ倶楽部で熱々おでんの芸とか、モノマネも面白かったなぁと思い出を振り返ってもみたが、やはり彼の人間性は竜兵会に表れていたように思う。竜兵会とは、上島竜兵さんと当時まだ売れていなかった若手芸人が毎晩のように集まって、飲み会をするだけの会。リーダーはもちろん上島竜兵さんなのだが、最初は緊張していた若手芸人も、だんだんと上島竜兵さんの優しさと天然のオトボケに、当時の若手芸人がいじったり、ツッコミを入れたり出来るようになり、体育会的、またはよしもと的な上下関係というより、歳の離れた友達の集まりという関係性になったとのことであった。

竜兵会のメンバーは、肥後克広さん、有吉弘行さん、劇団ひとりさん、土田晃之さん、デンジャラスさん、ヤマサキモータースさん、カンニング竹山さん、インスタントジョンソンスギさんで、決して人数は多くなく、また野武士といういきつけの居酒屋でいつもやっていたという。

普通であれば、こんなエピソードを聞けば、上島竜兵さんは良い人だったんだなぁとか、やっぱり面白い人だなぁとか、そんな感想が最初に出るのかもしれないが、私の場合は、真っ先に自分の過去がフラッシュバックしてきた。きっとそれは、竜兵会の雰囲気が私の経験と似ていたことと、アルバイトしていた学生時代からちょうど20年が経とうとしており、就職をして、家族も出来たり、東京から離れたり、コロナ禍があったり、あの頃とは全く違う生活をしているから余計に、過去への想いが強くなるのかなと考えてみたりもした。

さて、前置きが長くなってしまったが、私のアルバイト生活はどうだったかといえば、毎週、週末に朝から晩まで丸一日アルバイトをし、そして仕事が終わるといつものメンバーで、いつもの場所に飲みに行くという生活だった。竜兵会のように毎日ではなかったが、土曜日の夜だと、飲んだ勢いのまま、次の日の日曜日のアルバイトに出掛けることもあったり、そしてそれが終わるとまた日曜日の夜も飲み会という、学生時代ならではの体力で乗り切っていた。

いつものメンバーのリーダー的存在は、学生が多かったアルバイトの中にちょうど一回り(私より12歳)年上の先輩がいて、いつも学生の自分たちの面倒を見てくれ、飲み会に誘ってくれていた。その人には本当にお世話になり、とにかく一緒に飲んだり、草野球をしたり、時には温泉旅行や富士急ハイランドに行ったり、アルバイトの枠を超えてたくさん遊びに連れて行ってもらった。また、キャラクターも上島竜兵さんに似ていて、気前が良く優しい、面倒見が良くて、人間味に溢れていた。ただ、上島竜兵さんのように泣き上戸ではなく、飲んでもほとんど表情や態度は変わらないという感じであったし、またその先輩は野球で鍛えた身体は大きく色黒で、強面なので見た目も上島竜兵さんとはだいぶ違ったが、ただ、ツッコミどころ満載なところは、上島竜兵さんと同じだったし、竜兵会の話を聞いて一番シンパシーを感じたのは、みんなが上島竜兵さんをイジるという部分だったかもしれない。

そして、自分と同じ学生だったいつもの友人たちも、関係性が有吉弘行さん、劇団ひとりさん、カンニング竹山さん、土田晃之さん、などと似ていて、みんな自由にその先輩をいじったり、またこの学生メンバーの中でもみんな切磋琢磨していて、これから始まる就職活動とか、当時の恋愛とか、時には時事問題とか、色んな話を高いレベルで話せたメンバーで今、みんなすごい活躍をしていて、まさに竜兵会のメンバーと同じだなぁなんて思ったりもした。

そんなこともあり、竜兵会の話を聞くと、どうも自分の思い出を聞いているような気持ちになってきて、あの頃に戻って、あの居酒屋で、あのメンバーで、もう一回会いたいと思うようになった。しかし、今はまだそういう時期ではないだろうし、もう少し我慢かな、なんて考えると余計にまた当時の記憶が蘇って、強い郷愁に駆られるのである。

本当にくだらない、無駄な時間とお金の使い方だったかもしれない、竜兵会のメンバーもそんなことを言っていたように思うが、まさに自分もそう思う。飲み会って、結局酔っ払うので、何を話したかなんて、忘れてしまうことも多いし、酒税のせいか、やっぱりアルコールは値段も高いし、ついつい長くなるし、無駄なことばかりにも思えるが、唯一つ言えることは、あの時はずっと心の底から笑っていた。馬鹿みたいに、くだらないことでみんなで笑い合っていた。そして、そんなことが今、自分の人生の糧になっている。それは単に思い出としてではなく、個性的なメンバーの集まりで、無駄な飲み会を重ねるうちに、腹を割って話すことが出来るようになって、哲学的な成長が出来たと思っている。竜兵会の中でも土田晃之さんは飲み会の様子などをメモっていたというが、無駄と思われる中に、きっと学びもあったのだろう。

ただ、学びがあるから無駄なことが大切なのではないと思う。無駄なことは無駄で、楽しいからやっていたことがたまたま良いことがあった、ラッキー。人生とはこんなことの繰り返しのように思う。

今は今で、楽しい毎日だが、今とは全然違うあの頃はあの頃で、素晴らしい日々だった。