大谷翔平選手一択だろうと思うが、どういうわけか対抗馬がいて、さらに彼のほうがMVPに近いというのが、驚きを隠せない。本当に近いのかは別にして、そういう報道が多いということである。
Most Valuable Player がMVPであり、日本語に訳せば、最も価値のある選手、がそれに選ばれる。
大谷翔平のすごいところは、言うまでもなく、規定投球回と規定打席の二つをクリアしたことである。世界中の名選手が集まるメジャーリーグで、一軍に一年間いるだけでものすごいことである。日本で大活躍した選手でも、メジャーでは二軍にいるケースは珍しくない。そのくらい厳しい世界で、投手と打者、どちらも一流の成績を残したという前代未聞(ベーブ・ルースだの、100年前だの、はあるにせよ)の記録である。逆に言えば、一流の成績を残さないと、規定投球回まで投げさせてもらえないし、規定打数になるまで打席に立たせてもらえない。日本で高い成績を納めて、メジャーリーグに挑戦した選手であっても、規定投球回や規定打数にはなかなか到達しない。
つまり、二刀流と言って、強打者でありながら、たまにピッチャーをやるとか、エースピッチャーなのに代打で出てくるとか、そういうケースはあったにしても、どちらも規定以上をこなすというのは、それこそ真の二刀流であり、それは技術的には間違いなく超人的であること、しかしそれ以上に、移動などが過酷なメジャーリーグにおいては、体調管理やメンタル面なども他の選手以上に大変だったことも考慮すると、大谷翔平を除いて誰がMVPに相応しいのかと思ってしまう。
しかし、大谷翔平にとって不利な条件が二つある。一つは、対抗馬がヤンキースという名門球団かつ、今年は成績が良いことと、対する大谷翔平のエンジェルスが大きく低迷していることである。確かに、そんなエンジェルスからMVPが出るのは変だと思うのは理解出来る。しかし、MVP、つまり最も価値のある選手という観点から言うと、そんな弱いチームで勝ち星を15も積み上げたことは、打撃陣のバックアップがない中で、ということを考えるとむしろ弱小チームでの勝ち星の方が価値があると言えるはず。そもそも勝ち星というのが何点取られても、攻撃陣が逆転してくれればいいものなので、打撃陣が充実しているチームの投手の方が勝ち星をあげるのは有利である。また、打撃面においても、強打者がズラリと並ぶ中で打っている場合、相手のバッテリーは常に緊張状態で疲れるが、エンジェルスとの対戦の時には大谷とトラウトのみが厳しくマークされた中でのホームラン34本。これは、年によってはホームラン王にもなり得る数のホームランであり、また打率も2割7分という好成績。つまり、ヤンキースなど強豪チームで色々はバックアップがあるなかで達成するよりも遥かに大変な記録だったように思う。また、そもそもチームがあまり勝ててない中では、そのチームの数少ない勝利にどれだけ貢献したのかを考えてみれば、常勝軍団であれば、貢献度はこれだけやっても30%くらいかもしれないが、大谷翔平の場合には、70%を超える貢献度があるのではないかと思ってしまう。それこそ、最も価値のある選手なのだと思うのだが。
もう一つは、近年誰もやったことがないことである。簡単に言えば、ホームラン王というのは毎年多くの選手が目指しているし、歴代記録も毎年報道され、ホームランの数は単純明快で分かりやすい指標である。特にアメリカ人はホームランがなにより好きである。去年の大谷もゲレーロとのホームラン王争いがあり、高く評価はされ、それにピッチングが加わり、受賞した感じではあったが、今年の大谷の離れ業過ぎる偉業は誰もやったことのない、投手でも、打者でも超一流の証である規定を超えるということは正しく評価されないのだ。指標がないもの、奇抜なものを評価出来ないというのは、分からなくもない。学校の成績でも、数学とか歴史とか、そういうものであれば成績として評価出来るが、友達が多くて面倒見が良いとか、街で困っている人を助けているとか、すごいのは分かるけど、評価の基準がないものは、表彰されない。それが真の二刀流の難しさなのである。ただ、分かる人には分かるのが、単に成績がいいだけでなく、他にも優れた点がある方が人間的に優れているということであり、確かにホームランという成績では破れた大谷ではあるが、また投手としては最多勝で破れた大谷ではあるが、そのどちらもやったという目に見えないというか、評価出来ない部分が、本当はMVPの名に相応しいということが、絶対に伝わらないのだ。
ただ、一部報道で大谷翔平が日本人だから差別されているのではないか?との記事も見かけたが、私はそれはないと思っている。むしろ、多くの日本人が大谷翔平が日本人だから応援していて、日本人でなければ、ここまで報道もされなかったのではないかと思う。アメリカ、特に大リーグはそもそも外国人が多く、中南米からがメインだが、アジアからもたくさん挑戦しているし、まさに世界一のリーグという名に相応しい。よって、外国人だからと差別されることは、もちろん全くないとは言わないが、人数の比率から言っても、差別はされにくいと思っている。また、以前の記事でも書いたようにも思うが、私自身、アメリカに住んで、アジア人だからという理由で差別されたことはなく、日本人だから今回MVPに選ばれなかったのだ、というのは、当てはまらないと思っている。
まとめると、大谷翔平の今年の活躍は記録にも、そして特に記憶にも残る大偉業であったことは疑いもなく、普通に考えれば、MVPなのだが、チームが弱かったことで箔が付かない、二刀流の評価が出来ないことから、ヤンキースでしかも、評価しやすいホームラン王の選手が有望だとのこと。
また、MVPというのは、子どもに夢を与えられる選手に、という願いもある。ホームランを量産する選手や三振の山を築く投手も、盗塁をたくさんしたり、素晴らしい守備だったり、とにかく多くの優れた才能に与えられる称号ではあるが、今まで誰も挑戦してこなかった二刀流という離れ業に、海を渡ってきた若者が、知らない土地で、試行錯誤しながら挑戦し、自分の思い描く姿を必死で追いかけ、実現してしまったそのサクセスストーリーにMVPが与えられたら、それはきっと世界中の子ども達の新しい目標になっていくと考えている。
まだ発表されたわけでもないので、これからも動向を注視していきたい。